結論
2016年に私が書いた「ネーミングはクラウドソーシングに1万円で依頼する」という方法は、案を出す部分だけが役目を終えました。名前の候補を100個出すのは、いまはAIで数分・費用ゼロです。
代わりに残った仕事は、出てきた候補が初見の人にどう伝わるかを確かめることです。ここはAIには測れません。そしてこの確認が、クラウドソーシングが今も使える場所です。ランサーズのタスク形式で1問10円ほどの設問を配れば、100人分の反応が1,000円ほどで集まります。
外注する対象が「名前を考える作業」から「名前を試す作業」に入れ替わった、というのがこの10年の変化です。
元の記事に書いていたこと
2016年の記事の要旨は次のとおりです。
- 名前は社長の思い入れではなく、お客様主体で決める
- 条件は3つ。何が手に入るか分かる/語呂がよく紹介しやすい/他社に取られていない
- クラウドソーシングのコンペに1万〜1万5千円で依頼すると300件近く集まる
- 画数を条件に入れて選ぶ
- 名前を決めたらすぐ商標を取る。悪い評判の削除依頼が有利になる
このうち前半3つは今も通用します。後半2つは訂正が必要です。順番に見ていきます。
今も変わらない、名前を決める3つの条件
道具が変わっても、良い名前の条件自体は10年前と同じです。先にこの3つを決めておかないと、AIに何千個出させても選べません。
1. 何が手に入るか、見ただけで分かる
セミナーのポータルサイトに「Eternal Graduate School」と付けても、何が手に入るサイトかは分かりません。「学びラボ」のほうが伝わります。ここは10年前と変わっていません。
変わったのは、これを感覚ではなく確かめられるようになったことです。名前だけを見た人に「何を売っている会社だと思いますか」と書いてもらえば、伝わっているかどうかは答えのばらつきで分かります。方法は後半にまとめます。
2. 読める、言える、人に紹介できる
声に出して言えるか。電話で伝えられるか。読み方が割れないか。紹介されるときに正しく検索されるか。
この媒体の名前を「アツメカタ」にしたのも同じ理由です。読みが割れず、検索したときに別のものと衝突せず、意味(客の集め方)がそのまま事業の内容を指す、という3点で選びました。
3. 他社に取られていない
同じ名前が使われていないかの確認です。見る場所は3つあります。
- 商標 — 特許庁の無料データベース J-PlatPat で、同じ・似た名前が同じ区分に登録されていないか
- ドメインとSNS — 取得できるか。取れないなら候補から外す
- 検索結果 — 検索したときに、別の何かが上位を占めていないか
商標を出願する場合の特許庁費用は、出願料が「3,400円+8,600円×区分数」、登録料が10年分で「32,900円×区分数」、5年分なら「17,200円×区分数」です。審査には時間がかかり、2024年の平均ファーストアクション期間は約6.9か月とされています(商標登録の手続き・流れ・費用)。
変わったこと: 名前を出す作業に、もうお金を払う理由がない
2016年当時、コンペに1万〜1万5千円を出すと300件近い応募が集まりました。当時これは合理的でした。自分では出てこない語感が混ざるからです。
今は同じことが数分で終わります。金額よりも大きいのは、条件を変えて何度でもやり直せることです。コンペは締め切って集める形なので、集まった案を見て方向性が違ったと気づいた時点で、その1万円は終わります。AIなら「もっと短く」「業種が伝わる方向で」と条件を変えて、その場で出し直せます。
AIに出させるときの指示の型
- 誰の、どんな困りごとを解決するかを1文で渡す
- 想起してほしい言葉と、避けたい言葉を並べる(例: 手軽さは伝えたい、安さは伝えたくない)
- 音の条件をつける(4〜6音、読みが割れない、濁音を避ける、など)
- 出力に読み・意味・その名前から連想される業種を併記させる
- 30個単位で出させ、方向を伝えて次の30個を出させる
4つ目が要点です。連想される業種をAI自身に書かせると、その出力がそのまま条件1のテストになります。狙った業種と違うものが書かれたなら、その名前は伝わりません。
AIに測れないもの: 初見の人が何を思い浮かべるか
AIに「この名前はどう思われますか」と聞けば答えは返ってきます。ただしそれは学習データの平均であって、あなたの候補を初めて見た人の反応ではありません。
公開してから比べればよい、とも言い切れません。中小規模ではA/Bテストが統計的に成立しないことはボタンの色の記事で書いたとおりで、名前も同じです。母数が足りないまま「なんとなく反応が悪い」で終わります。公開する前に、少人数に直接聞くほうが早いです。
今のクラウドソーシングの使い方: 1問10円で反応を集める
ランサーズにはタスク形式があり、短い作業を多人数に配れます。アンケートはこの形式の代表的な用途です。
公式ガイドは作業単価の目安として「1分15円が1つの目安となります」としています。30秒で終わる設問なら10円前後が目安で、集まりが悪ければ上げます。あわせて「ひとりあたりの制限」を設定でき、ガイドにも「アンケートなど同じ人に作業して欲しくない場合を除いては、制限しないことをおすすめします」と書かれています(タスク方式の依頼作成)。アンケートでは必ず1件に制限してください。同じ人が20回答えたら、100件集めても意味がありません。
費用は、依頼者側にシステム手数料が契約金額(税込)の5.5%かかります(システム手数料)。1件10円×100人なら1,000円と手数料55円です。
- 候補を5〜8個に絞る(多すぎると比べられない)
- タスク形式で依頼を作り、ひとりあたりの制限を1件にする
- 単価を10〜30円、募集件数を100件に設定する
- 集まった回答を名前ごとに集計する
- 上位2つに絞り、設問を変えてもう一度回す
何を聞くかで、得られるものが変わる
好みを聞いてはいけません。「どれが好きですか」で選ばれる名前と、実際に選ばれる商品名は別物です。
| 聞き方 | 分かること | 使う場面 |
|---|---|---|
| どれが好きですか | 回答者の好み | 使わない |
| この名前の会社は何を売っていると思いますか(自由記述) | 何が伝わるか | 最初に必ず |
| 読み方をひらがなで書いてください | 読みが割れるか | 造語のとき |
| 値段が同じなら、どちらの説明を読みたいですか | 関心の差 | 2つに絞ったあと |
| この名前を友人に説明するとしたら何と言いますか | 紹介されるときの言葉 | 口コミで広げたいとき |
同じ候補を見せても、聞き方によって分かることが変わります
自由記述の答えが2〜3種類に収束していれば、その名前は伝わっています。10種類に散るなら、名前だけでは何も伝わっていないということです。ここが、AIには出せない情報です。
訂正1: 商標を取っても、悪い評判は消せない
元の記事にはこう書きました。
ただ、商標を取得しておくと、サイト上からの削除依頼が有利になります。(知的財産権での削除依頼は高確率で削除できる)
これは正しくありません。商標権の効力は、商品やサービスの出所を示す使い方に対して働きます。2014年の改正で入った商標法26条1項6号は、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」には商標権の効力が及ばないと定めています(商標的使用とは)。
批評記事や口コミの文章の中に店名・商品名が出てくる使い方は、出所を示す使い方ではありません。したがって、商標権を根拠に削除を求めることはできません。商標が効くのは、次のような場面です。
- 他社が同じ・似た名前で、同じ分野の商品やサービスを出した
- 自社になりすましたサイトやアカウントが作られた
- 名前を無断で使った広告が出た
Googleの口コミについては、削除の判断基準はポリシー違反かどうかだけで、店側と投稿者の言い分の食い違いにGoogleは関与しません。判断の仕方はGoogle口コミの削除依頼が通る条件にまとめています。
訂正2: 「ネーミングで売上が10倍」は測っていない
元の記事には「ネーミング次第で、売り上げが10倍、20倍変わるのは当たり前」と書きました。これは実感であって、測った数字ではありません。同じ商品を名前だけ変えて売り比べた記録を、私も持っていません。
代わりに測れるのは、上のアンケートで出る「何屋だと正しく伝わった人の割合」です。8割が同じ業種を答える名前と、答えが10種類に散る名前とでは、広告を出したときに説明に必要な文字数が変わります。名前で変わるのはそこまでで、その先は商品と価格の話です。数字を盛る代わりに、測れるものだけを測るほうが、次の判断に使えます。
画数をどう扱うか
元の記事では、依頼するときに画数を条件に入れていました。今も候補を絞る制約として使うのは自由ですが、画数と事業の成績の関係を示す資料は見当たりません。占いの結果を理由に、伝わる名前を落とすのは損です。
使うなら順番を変えてください。伝わる・読める・権利が空いている、を先に満たした候補が複数残ったときの最後のタイブレークにする。この使い方なら失うものがありません。
- 初見の人が「何屋か」を同じように答えた
- 読み方が割れない(造語なら読みを聞いて確認した)
- J-PlatPatで、同じ・似た商標が同じ区分にないか調べた
- ドメインとSNSアカウントが取れる
- 検索したときに、既存の別のものが上位を占めていない
- 声に出して言える。電話で伝えられる
- 商標を出願するかどうか、区分と費用まで決めた
今日やること
候補があるなら、AIに30個出させて5個に絞るところまでを今日やってください。ここまでは無料で、1時間かかりません。
そのうえで、5個をランサーズのタスクに載せ、「何を売っている会社だと思いますか」の1問だけを聞きます。1,000円ほどで、翌日には答えが集まります。名前を出す作業が無料になったぶんの予算を、確かめる工程に回すというのが今の形です。
名前が決まったあと、その名前で広告と口コミを積み上げていく段階なら、当社の広告運用(アドキタ)では、どの言葉で反応が出ているかを計測したうえで、出稿する文言と配分を決めています。



